日本バングラデシュ協会 メール・マガジン(150) 2026年4月号 巻頭言:『農村から見たバングラデシュ総選挙』 神戸女学院大学国際学部・准教授 南出和余

■目次
■1)巻頭言:『農村から見たバングラデシュ総選挙』
                      神戸女学院大学国際学部・准教授
                      南出和余

■2)寄稿:『バングラデシュ2026年総選挙 ―政党間競争の再編と制度的課題―』
                      日本バングラデシュ協会監事
                      日下部 尚徳

■3)寄稿:『テクナフで少し困った』
                      広島修道大学教員
                      高田 峰夫

■4)寄稿:『バングラデシュ料理に魅せられて』第五回
                      バングラデシュ料理研究家
                      川口 由夏
■5)『イベント情報』
■6)『事務連絡』
■7)『読者のひろば』
・メルマガ3月号の各寄稿への読者の感想をご紹介します。
・メルマガ寄稿への感想ほか、お気づきの点など、なんでもお寄せ下さい。
■8)『編集後記』

■1)巻頭言:『農村から見たバングラデシュ総選挙』
                      神戸女学院大学国際学部・准教授
                      南出和余

第13回バングラデシュ総選挙
2月12日に行われたバングラデシュの第13回総選挙。前日と当日(+翌日は金曜日)は学校もオフィスも休みとなり、ダッカで働く農村出身者たちは登録を農村に残している人も多く、火曜に仕事を終えると一斉に帰省。道は大渋滞、電車やバスはチケットが取れずに帰省を断念する人も数多くいました。
大学から在外研究期間を得て昨年9月から今年3月までの半年間バングラデシュに滞在していた私は、一足早く2月4日にはダッカから農村に移動し、いつものジャマルプールの調査地で選挙を迎えました。農村ではジャガイモとカラシナの収穫と田植えの農繁期、女性も男性も田畑に出て忙しくしています(ジャガイモの収穫は主に女性の仕事、田植えは男性の仕事)。選挙前日まで私は「この忙しい時期の選挙は農村に適していないのではないか」と思っていました。振り返ってみると、2008年以降これまでの選挙は常に年末年始の農閑期に行われていたのに対して、今回の選挙の時期は「ラマダンに入る前に」という宗教慣行への配慮はあったものの、農民への配慮という点では欠けていたと言わざるを得ません。
それでも選挙当日になると、朝から投票所には長蛇の列。私は、誰もが「あの選挙は良かった」という2008年も、2018年の「シラケ選挙」の時も農村にいたので、今回はバングラデシュ総選挙3度目です(といっても私には投票権はありませんが)。26年通うこの村の人たちは皆私のことをよく知ってくれているためとても協力的で、選挙当日は投票所のある市場の茶屋で何杯お茶をご馳走になったか分かりません。2008年の時と同様に映像撮影もしましたが、「え、いいの!」というくらい投票所の中まで案内してくれて、選挙の様子を一部始終撮影することができました。それだけ人々は、選挙の非日常性を楽しみ、そして平穏に行われる選挙を歓迎していたのです。
選挙結果はほぼ前評通り。とはいっても予定調和ではないので、開票まで人々は固唾を呑んで結果を見守っていました。2008年との違いは、2008年時はテレビの前に人々が集まって画面に釘付けになっていたのに対して、今回は各自がスマホに釘付けです。近隣の投票所の開票結果については携帯電話で口コミ情報が拡散し、誰もがジャーナリスト!結果はご存知の通り、299議席のうちBNP(バングラデシュ民族主義党)が209議席を獲得して圧勝、ジャマティ・イスラミ党が68議席で大躍進、一昨年政変を起こした学生たちによるNCP(国民市民党)は6議席に留まりました。ジャマルプール県では5議席全てをBNPが獲得しました。全体の投票率は6割弱と低めでしたが、その背景には政変までの16年間政権を握っていたアワミ連盟支持者の動きがあったことは言うまでもありません。

「公平平穏な選挙」を求めて
今回の選挙に対して人々が声を揃えるのは「シュスト・シャンティプルノ・ニルバチョン(公平平穏な選挙)」。調査地の村は元々アワミ連盟支持者の多い地域でしたが、今回アワミ連盟が選挙に参加できなかったことから、(元)支持者たちの中には、敢えて選挙に行かなかった者、「今回はBNPに任せてみよう」とBNPに投票した者、またなぜか「こっそり」ジャマティ・イスラミ党に投票した者と、立場が分かれました。しかし「シュスト・ニルバチョン」を求めることにおいては支持政党に関わりなく共通していて、私が知る限り、概ねそれが実現していたように思います。
子どもの頃から付き合いのある30代の若者の中には今回が初めての投票という者も少なくありませんでした。選挙権を得て以降ここ数回の選挙では、投票がまともに行われていなかったからです。自分の票を自分で投票することの喜びと尊さ。投票を終えた人たちの親指には投票済みを示す青色のマーカー線。SNS上では👍ポーズで投票したことをアピールする投稿が溢れていました。
今回の選挙は、理由はともかくアワミ連盟あるいはその元支持者たちが参加できなかった点において、完全な意味での「民主的な選挙」とは言えなかったかもしれません。それでもそれが暴動を呼び起こさず、「選挙当日に負傷者が出ない久々の選挙」(選挙翌日の新聞報道)が実現したのは、人々が「平穏な選挙」を求めていたからに他なりません。そして、選挙が各党の利権争いではなく、人々の生活を良くするための政治を司るためのものであることを求めていました。
選挙から3日後、ジャマルプールからダッカに戻る超満員電車の中は選挙と政治談義に盛り上がっていました。異なる支持政党それぞれの立場からの次期政権への期待と懸念。私が向けるビデオカメラの前でも人々は自由に政治を語ってくれました。表現の自由と民主主義復活の兆しが見え出しています。その期待がどうか裏切られませんように!

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