1.地政学的位置と全方位外
(1)地政学的位置
バングラデシュは、インド亜大陸の東端にある。南アジアと東南アジアの結節点、中国のインド洋への出口に位置する。
亜大陸の西端では、核兵器保有国であるインドとパキスタンが宿敵として対峙し、イスラム過激派勢力も浸透しているとされる。これに比べ、ベンガル湾地域は穏やかで安定している。バングラデシュは、この地域の安定に腐心してきた。例えば、ロヒンギャ難民が波状的に大量流入を重ねてきても、ミャンマーと対決しようとはしない。
(2)全方位外交
国父ムジブル・ラーマンの国訓「敵意なく全ての国と友好を」の下、バングラデシュは「全方位外交」を基本としてきた。
バングラデシュは、「Big Brother」インドに3方を囲まれている。ガンジス川の水利も抑えられ、生殺与奪を握られている。そもそもバングラデシュの独立も、米中ソのパワーゲームと絡みつつ、インドの軍事進攻によって達成された面がある。インドとは、国民感情の好悪にかかわらず、社会経済の基盤を共有しており、隣国として共存してゆかざるを得ない。対印友好は、バングラデシュ外交の最優先事項である。
その上で、パワーゲームから身を護り、独立国家として生残り、国力を開発と発展に傾注する。これがバングラデシュ外交のテーゼである。そのためには、穏健なイスラムの民主国家として、対立や紛争を避け、域内・域外諸国と良好な関係を築いていく外にない。
2.マルチ外交と国際協調
バングラデシュは、マルチ外交を重視し、国際協調を図ってきた。
(1)1972年に英連邦、73年に非同盟運動、74年にイスラム諸国会議機構に加盟。74年には日本などの協力を得て、宿願の国連加盟を達成した。
75年にはムジブル暗殺と度重なるクーデターの過程で、独立戦争の「負の遺産」であった、パキスタンと中国との関係を、ともかく清算出来た。爾後、バングラデシュは、印中米とパキスタンとの間で、いずれにも偏ることなきよう、注意深く外交を進めてきている。
(2)1980年、南アジア地域協力連合(SAARC)を提唱。85年ダッカでの第1回首脳会議で、SAARCの憲章が採択され、発足に至った。南アジアの地域協力を進め、域内の安定と経済の発展をめざしているが、印パの対立から、同連合は、はかばかしい進捗はみられていない。
また核の脅威下のインド亜大陸で、1979年に核兵器不拡散条約(NPT)に加入し、2000年には先陣を切り、包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准した。
(3)国連では、国際的貢献を国家目標とし、平和維持活動(PKO)に力を注いでいる。1990年代半ば以降、欧米諸国が派遣を控えてきたのに比し、バングラデシュは、南アジア諸国と共に派遣要員を増やし、最大規模の要員派遣国(約6千~1万名)となっている。
(4)世界銀行、アジア開発銀行(ADB)などからは経済開発面で、世界保健機関(WHO)、世界食糧計画(WFP)、国際連合児童基金(UNICEF)など国際機関からは社会開発面で、多大な支援を得てきた。
ジュートから縫製品への輸出産品と産業構造の変化に伴い、特恵関税の取扱い、直接投資の誘致などが、経済外交の課題となっており、世界貿易機関(WTO)、多数国間投資保証機関(MIGA)などが重要性を増している。なお2018年には、国連の後発開発途上国(LDC)の卒業基準3つすべてを達成した。早ければ2024年にも正式にLDCを卒業すると見込まれる。
3.イスラム諸国と欧米諸国との外交
(1)中東諸国とは、イスラム教を通じて精神的紐帯を持つ。グロ-バリゼーションの進展は、イスラムの伝統的価値を覚醒させる。2度の湾岸戦争では、国民の間で情緒的な反応も看られたが、穏健なイスラム国家として、中東・アラブ諸国と欧米諸国との間でバランスを取った外交を維持した。
バングラデシュは1980年代より失業対策と外貨獲得のため、海外出稼ぎを奨励してきた。主たる就労先は湾岸産油国(約8割)である。毎年、70~80万人が出稼ぎに行き、彼らの海外送金(2018年度で149.8億ドル)が外貨収入の約3割を稼ぎ、貿易赤字を埋めている。
(2)欧米諸国には、わだかまりもあるが、憧れも抱いている。留学、就職、移住先となると、圧倒的に英米志向である。英国に約45万人、米国に約18万人の長期滞在者や永住者が住み、バングラデシュ・コミュニティが存在する。母国には送金、ビジネスなどで橋渡しを行っている。
欧米諸国は縫製品の主要輸出先であり、LDC卒業に伴う特恵関税の取扱いが懸案となる。今後はインドに倣い「デジタル・バングラデシュ」の標語の下、ITデジタル分野で欧米諸国とのビジネス交流を図っていくとみられる。
4.日本とベンガル湾地域
(1)21世紀に入り、インドと中国は、新興経済大国として目覚ましい躍進を遂げた。インドは「Act East」政策を取り、亜大陸から東南アジアへの連結を目指している。中国は「一帯一路」政策の下、ベンガル湾にも進出している。両大国のパワーが交差するバングラデシュとしては、国際的なビジネスの進出・展開地帯としていくことで、印中の攻防を緩和しようともしている。
(2)日本は、かけがえのない友好国となっている。日本は、独立前より、温かくバングラデシュを支援してきた。多年にわたりトップ・ドナーとして、質の高いインフラや人造り協力などで、貧困削減と経済発展を支えてきた。専門家、青年海外協力隊、NGO関係者が、バングラデシュ人と一緒に汗を流す姿が、日本人への信頼につながっている。
バングラデシュは、日本がODAで築き上げたインフラや人造りの基盤の上に、日本のビジネスが進出・展開することを期待している(日本の直接投資額は第10位)。「BIG-B(ベンガル湾成長地帯構想)」を一緒に推進し、中国、インド、東南アジアという成長のトライアングルにあって、ハブの一つになることを志向している。
(文責:太田清和)