バングラデシュ経済の概要

バングラデシュは長らく世界の貧困国というラベルを張られ、語られることが多かった。近年バングラデシュ経済にみられる変化は、そのイメージを払拭しつつある。


ニューマーケット付近の風景


ボシュンドラシティーショッピングセンター内の様子

・経済動向
バングラデシュの経済発展は、特に首都ダッカなどでは都市風景が変化するスピードや、あるいは人々の生活情景からその躍動感を感じることができる。人口約1億6,000万人のバングラデシュの平均年齢は24歳と若い。バングラデシュはNext11(ゴールドマン・サックス)、Frontier 5(JPモルガン)と呼ばれ、今後世界経済の成長センターの一角を担うと期待されている。

多国籍企業にとってバングラデシュは安価な労働力を利用した生産拠点としてだけではなく、ホンダが2018年末に二輪車新工場の稼働を開始したように、成長する消費市場を取り込む動きが活発化している。世界の注目が集まるバングラデシュには、政府開発援助や直接投資流入が増加している。この流れは、「一帯一路」構想を掲げる中国、そして「アクト・イースト」を掲げるインドがともにインド太平洋地域で影響力を強めようとする動きによって一層強化される。バングラデシュはこれら大国との外交に対処しながら、経済成長の機会を得ている。

バングラデシュ政府は「ビジョン2021」、「ビジョン2041」といったロードマップを掲げ、これらに関連する「5カ年計画」などの長期政策を打ち出し、成長し行くバングラデシュの輝かしい未来の姿を内外に向けて発信している。今後バングラデシュ国民全員がいつまでにどの程度の生活環境の改善を実感できるようになるか、経済の行く末を占うことは難しい。しかし、バングラデシュは現在、世界の貧困国というイメージではなく、「成長の軌道にのったアジアの新興国」という姿を強く意識している。


グルシャン2付近の様子


グルシャンア通りにある地場アパレルブランド「YELLOW」の旗艦店舗

・主な経済指標
バングラデシュは2000年代から現在に至るまで平均で約6%の高い経済成長率を維持しており、2015‐2016年度(2015年7月~2016年6月)には初めて7%台を記録した。続く2017—2018年度には7%台後半の成長率を記録し、2018‐2019年度のGDPは初の8%台に入るとも予想されており、次年度以降についても同規模の成長が見込まれている 。2017‐2018年度のGDPは約2,700億ドル、一人当たりGDPは1,700ドル台に入った。

バングラデシュは2015年に世界銀行の定義による低中所得国の仲間入りを果たした。現与党アワミ連盟はハシナ首相のリーダーシップの下で2021年までには中所得国入りを目指しており、2024年までには国連の定義における後発開発途上国(Least Developed Country : LDC)の卒業が見込まれる。これらに加え、現政権は2041年までに先進国入りするという壮大な目標を掲げている。

高い経済成長率を維持するバングラデシュでは、社会開発指標にも一定の変化がみられる。ミレニアム開発目標のターゲット1に分類される貧困率削減に関する目標については、1990年には約57%であったが、2015年までに約25%にまで削減に成功した。


都市の風景(テジガオ)


都市の風景(鳥のヒナを見つけ作業を中断する子供たち、シャモリ)


都市の風景(オールドダッカ)

・国際収支と財政の概要
バングラデシュには外貨を稼ぐための大きな二つの柱が存在する。一つは衣類製品輸出で、もう一つは海外出稼ぎ労働者による送金流入である。2017—2018年度の全輸出額に占める衣類製品輸出額の割合は約83%と高く、GDPの約11%を構成している。衣類製品生産に用いられる原材料や関連機械は主に中国、インドから輸入し、衣類製品の多くはEU諸国とアメリカに輸出される。この縫製産業が最も外貨を稼ぐ。海外出稼ぎ労働者による送金流入は、特に中東諸国から多い。同年度の海外送金流入はGDPの約5%を占め、貯蓄や消費の源泉となっている。バングラデシュの国際収支をみると、貿易収支は赤字基調である。経常収支は海外送金流入による黒字で、全体として貿易による赤字を埋め合わせる構図になっている。

財政については海外援助資金が全体に占める割合が減少し、近年では海外融資の比率や国内銀行によるファイナンスの比率を高めている。不十分ではあるものの財政源として増加し始めている税収入が予算を拡大している。これによりインフラを中心とした公共投資が増加していることがわかる。外貨準備高も現在約320億ドル規模にまで達し、輸入額が増加した際にも対応できる。また、輸出総額に占める対外債務支払いの比率は約3%台で推移している。獲得した外貨のほとんどを債務の支払いに回さなければならないという状況にはない。

国際収支、財政収支に影響を与えた要素として、1980年代以降に伝統的な工業製品であったジュート原料・及び関連加工製品に代わり、衣類製品の輸出が拡大したこと、海外出稼ぎ労働者からの送金流入が増加していったこと、これらに加えて緑の革命による食糧自給を達成したことなどがあげられる。


都市の風景(テジガオ)


都市の風景(テジガオ)

・産業別GDPの割合と産業別就業者の割合
縫製産業は工業部門を牽引する存在だが、バングラデシュ全体を見渡すと2017-2018年のGDPに占める農業、工業、サービス業の割合は、それぞれ約14%、33%、52%となっている。他方で、労働者の産業別就業状況は約40%が農業、約39%がサービス業、そして約20%が工業となっている。縫製産業は工業部門の中心となるが、皮革・靴産業と合わせて工業部門における就業者全体の約38%を占めている。縫製産業は雇用を創出しているものの十分とはいえない。

バングラデシュの人口の大半は農村で生活を営んでいる。現在バングラデシュでは農村と都市部において非農業セクターへの就業が増加している。また、全雇用者人口の内5人に4人がインフォーマルセクターで働いているという調査報告が存在する。フォーマルセクターでの雇用が未だに限定的なのである。

このような状況を背景にバングラデシュ政府は産業の多角化を目指している。工業では繊維・縫製産業およびその他の労働集約型産業の拡充、「デジタル・バングラデシュ」ではICT産業の確立を計画している。取り残された農業部門についても、アグリビジネスによって変革をもたらそうと取り組みが進む。

・バングラデシュ経済の抱える課題
バングラデシュは近年目覚ましい経済成長を遂げており、それにともない国民生活水準の向上と貧困率の減少が確認される。しかし、貧困は未だにバングラデシュに暮らす人々が日々直面する問題である。一日当たり3.20ドル未満で生活する人口の割合は、未だ約53%存在する。富の偏在も指摘される。上位5%の世帯が総所得に占める割合は約28%という数字が出されており、所得格差の拡大が傾向として確認される。

また、社会開発においても取り組まなければならない問題は山積している。保健セクターをとりあげれば特に五歳児未満の死亡率や妊婦死亡率は未だに高い。バングラデシュの経済成長が国民に裨益する形で実現するか否か、社会インフラ整備などこれから取り組んでいかなければならない課題は多い。このような課題に対し、バングラデシュのみならず、国際的にも多国間、そして多業種、多セクター協業での開発が進んでいる。バングラデシュ政府や現地企業、NGOに加え、これら多様な機関が同国の社会開発に関連するプロジェクトに携わっている。持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals : SDGs)の達成に向けた取り組みや、社会課題の解決を目標としているBOP(Base of the Pyramid)ビジネスなどにおいてもセクターを横断した開発の体制が重要視されている。

このような状況からも、プロジェクトの関係者は着実に成長を遂げるバングラデシュ経済の輝かしい側面だけでなく、同国が抱える諸問題についても改めて認識を深める必要性が高まっているといえる。

(文責:深澤光樹)