日本バングラデシュ協会 メール・マガジン124号(2024年2月号)巻頭言:『勢いづくバングラデシュ現代美術界(3)―ダッカ・アート・サミット』 福岡アジア美術館 学芸員 会員 五十嵐 理奈
■目次
■1)巻頭言:『勢いづくバングラデシュ現代美術界(3)―ダッカ・アート・サミット』
福岡アジア美術館 学芸員
会員 五十嵐 理奈
■2)会長寄稿:『バングラデシュ総選挙』
日本バングラデシュ協会会長
渡辺正人
■3)会員寄稿:『バングラデシュ・地球と人にやさしい最強の食卓』
特定非営利活動法人 アジア砒素ネットワーク
石山民子
■4)会員寄稿:『ベンガル語のふたりの先達 我妻和男教授(前)』
元理事 渡辺一弘
■5)企業会員寄稿:『バングラデシュが私に教えてくれたこと
〜お互いの良さを認め合える世界へ〜』
NewVision Japan株式会社
代表取締役社長 福嶋祐子
■6)事務連絡
■7)『読者のひろば』
・メルマガ1月号の各寄稿への読者の感想をご紹介します。
・メルマガ寄稿への感想ほか、お気づきの点など、なんでもお寄せ下さい。
■8)編集後記
■1)巻頭言:『勢いづくバングラデシュ現代美術界(3)―ダッカ・アート・サミット』
福岡アジア美術館 学芸員
会員 五十嵐 理奈
2010年以降、経済成長とともに勢いづくバングラデシュの美術界。国、財閥、そして民間のアート・スペースによる国際展をとおして4回シリーズで紹介します。
現代美術の国際展「ダッカ・アート・サミット(DAS)」は、バングラデシュ美術と都市文化のあり方に新しいフェーズをもたらした展覧会である。主に南アジアの現代美術作家を紹介する1週間ほどの短期間の国際展は、バングラデシュ国立芸術機関のシルポコロラ・アカデミーを会場に、2012年からサムダニ美術財団が2年毎に主催してきたもので、2023年で6回目を迎えた。サムダニ美術財団とは、バングラデシュの実業家であり南アジア現代美術のコレクターであるナディア&ラジーブ・サムダニ夫妻が2011年に設立した財団で、DAS開催のほかセミナー、教育プログラムなどの幅広いプロジェクトを実施し、海外アーティストのバングラデシュへの紹介と併せてバングラデシュ美術の世界へ向けたプロモーションに尽力してきた。
DAS2016会場入口
DASは、毎回、海外キュレーターを迎えての複数の企画展覧会から成る。全体のアート・ディレクションは、初回より南アジア・東南アジアでの現代美術の経験が豊富なアメリカ人キュレーター、ダイアナ・ベタンコートが務めてきた。パフォーマンス、地元のギャラリーやアート・グループによるブース展示、さらにトーク・パネル、建築展示、美術評論会、学際的なシンポジウム、映画上映、アーカイブ展示などそれぞれのプログラムに海外の美術機関がコミットし、国際的なアート・ネットワークを活かした多彩なプログラムが組まれる。南アジアの近代美術を領域横断的に展示したり、若手作家を積極的に登用して新作の委託制作をするなどして、これまで重要とされながらも、バングラデシュの社会システムや階級的な美術界の制限のなかで、評価されず、紹介されることの少なかった領域にも焦点をあてた企画を打つ。なかでも、バングラデシュの若手作家に賞を与えられるサムダニ美術賞展では、受賞者はイギリスのレジデンス(滞在制作)に参加できる副賞があり、若手作家が研鑽を積む場を提供し、人材育成にも注力している。入場料無料で開催されるDASは、美術に興味がなくても行ってみたいと思わせる「お祭り」としての祝祭性も演出され、近年では50万人もの来場者で会場は賑わった。
ジハン・カリムの映像インスタレーション《Eye (1)》2016年
DASは、現代美術におけるグローバル・スタンダードとなった制度――作品の展示方法、海外輸送、委託制作、総合的な演出などを初めてバングラデシュ美術界に持ち込み、大学や国などの既存の制度を超え、バングラデシュ美術に新しいフェーズをもたらした。本展の主要スタッフが外国人であることや、ビジネス分野を基盤とする自由の利く私立財団であるという、バングラデシュ美術界の外部の立場であることを巧みに活かした挑戦的な試みである。バングラデシュ人のキュレーターや運営者が少ないという当初の課題は、この10年の継続の中で大規模な国際展に関われる地元スタッフが増えてきたように見受けられる。
サムダニ美術財団の次のプロジェクトは、サムダニ夫妻の故郷シレットに、世界レベルのアートセンターを建てること。「スリハッタ」のオープンは、今年2024年に予定されている。
コビール・アフメッド・マスム・チスティの鏡の自分と闘うパフォーマンス《Dialogue Negotiation》2016年
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