日本バングラデシュ協会 メール・マガジン103号(2022年7月号) よみがえった回転式除草機 京都大学東南アジア地域研究所連携教授 安藤和雄

日本バングラデシュ協会の皆様へ 
■目次  
■1)よみがえった回転式除草機
                                   京都大学東南アジア地域研究所連携教授
                                   安藤和雄
■2)石井一とA.G.マハムード ~「ダッカハイジャック事件」の戦友たち~
                                   元理事 渡辺一弘
■3)理事退任のご挨拶
                                   前理事 顧問 七田 史(しちだ ひさし)
■4)ITビジネスでバングラデシュと日本をつなぐ
                                   株式会社BJIT(Inc.)社長
                                   理事 堀川 雅紀
■5)メルマガの編集運営:昨日、今日、そして明日
                                   メルマガ委員長/編集長
                                   太田清和
■6)『事務連絡』

■7)『読者のひろば』
・今月号は、メルマガ6月号各寄稿への読者の感想です。
・メルマガ寄稿への感想ほか、お気づきの点など、なんでもお寄せ下さい。

■8)編集後記

■1)よみがえった回転式除草機
京都大学東南アジア地域研究所連携教授
           安藤和雄

回転式除草機
 6月上旬から一日のうちで時間さえみつければ水田の回転式除草機(中耕除草機)である田打ち車を押しています(写真1)。昨日(7月10日)にも回転式除草機を田んぼで押しました。3回目となります。手取りで水田除草をしていた頃は4番草(4回の除草)までとったといわれます。水田稲作において除草作業は田植え、稲刈りとともに、大変重要な重労働だったのです。回転式除草機はこの重労働から農家を解放しました。この事情はバングラデシュでも変わりませんが、バングラデシュでは最近になるまで回転式除草機はなかなか定着しませんでした。

5月25日から3日ほどかけて、農協の育苗センターの育苗箱で育成された「あさひの夢」という品種の苗を私は歩行型田植え機で田んぼに移植しました。並木のように幅30㎝の二本のラインで、苗が2~4本ずつ等間隔の株間で植えられています。これを並木植え、もしくは、ライン植えといいます。回転式除草機を私が使用できるのもライン植えのお陰です。バングラデシュで回転除草機がなかなか広まらなかったのはライン植えが普及しなかったからのようです。青年海外協力隊員として私がノアカリ県で乾季灌漑稲作の技術普及をしていた1978~81年にかけて、農家はランダム植えを好んでいました。バングラデシュでは田植えは雇用労働力で行うのが一般的なので、植える方も、雇う方も早く田植えを終えることができたランダム植えが一般的だったのでしょう。


しかし、2000年前後から回転式除草機はバングラデシュでも移植稲作でよく見られるようになりました。とくに乾季に地下水や川、池の水を利用した灌漑による高収量品種の稲作で使われています。バングラデシュにおいても農業労働力不足が起きていることから除草労働力を減らしたいことや、化学肥料である尿素を丸く固めたものを稲の株間に均等に施肥していく施肥法が開発され、その肥料を均等に田んぼに施用するためにJICAの農村開発プロジェクトで私が長年かかわってきたタンガイル県カリハティ郡のD村では1990年代後半からライン植えが広まりました。並木の移植苗の真ん中の泥に肥料を埋め込みます。同時に回転式除草機も同時に普及したのです。
回転式除草機は日本生まれです。明治の中頃に中井太一が世界ではじめて回転式除草機の特許を取りました。当初は回転ドラムが一つで太一車と呼ばれ、それが発展して二つのドラムをもつ現在の回転式除草機となりました。バングラデシュではジャパニーズ・ウイダー、D村ではチャッカ・ワラ・ウィダー(車がついた除草機)とも呼ばれています。日本では、1960年代から化学農薬の除草剤が水田で盛んに使用されるようになり、急激にその姿を消しました。バングラデシュでは東パキスタン時代の1950年代にJICAにつながるアジア協会により日本式稲作が導入されました。当時の記録である「東パキスタンの大地に挑む-第一次日本農業使節団、汗と涙の技術協力奮闘の記録」(川路賢一郎編著、2004)ではライン式田植えの導入が明記されていますが回転式中耕除草機は記録されていません。しかしセットとして導入されたことは間違いないはずです。日本とは異なり、当時除草剤は導入されていません。除草剤の水田使用はバングラデシュでは現在でもそれほど多くはありません。その理由は、価格などの経済的なことがあるかと思いますが、やはり雇用労働力が安く、田んぼの灌漑水を溜めるコントロールがかなり重要となる除草剤の使用は、使用方法を正確に守らないと雑草がかなり発生してしまい、完全な雑草防除は難しいのです。しかし手取り除草であればほとんど除草できるという長所もあり、それが除草剤の普及を遅らせたのだと思います。
 日本でも現在(2022年)回転式除草機は再び注目をあびています。その理由は、減農薬、無農薬、有機栽培の普及にあります。木製で鉄のドラムがついていたものからアルミ合金製の軽いものと品質も改良され、使いやすくなっています。私が回転式除草機を使っているのも現在減農薬の稲作に取り組んでいるからです。米には糠や胚に繊維分や栄養が多くあることが知られています。糠と胚が多少残る6分づき、7分つきで精米した糠が残った白米を食べることがよいと新聞やマスコミでもすすめられ、私も同じ考えです。しかし米の農薬の残留は糠に7割、白米部分に3割と一般に言われています。毎日米を食べるには農薬を減らしていく栽培方法が必要です。
 バングラデシュでも近年食の安全性や栄養については関心が高まりつつあり、米もその例外ではなくなることでしょう。回転式除草機の使用は、安全な米の生産には必須の技術であり、現在、日本ではその動力化も急ピッチに進んでいます。そして、同じような技術発展がバングラデシュでも起きていることです。詳しく取り上げませんが、回転式除草機もバングラデシュでも独自の発展を遂げています。1950年代に日本式稲作がバングラデシュに導入された除草剤を使わない稲作は、2020年代には、安全、安心な米の生産という共通の課題に向かった新しい稲作をつくっていく原動力となっていくでしょう。回転式除草機はその象徴的存在なのです。

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